専門家の声

シティプロモーション、移住定住 広報の成功は協働によって実現する

河井 孝仁さん(かわい たかよし)

東海大学文学部広報メディア学科教授。専門は行政広報論、地域情報論、NPO論

博士(情報科学) 名古屋大学法学部卒業、名古屋大学大学院情報科学研究科博士後期課程満期退学。静岡県企画部情報政策室などを経て現職。
「地域メディアが地域を変える」(日本経済評論社)、「シティプロモーション 地域の魅力を創るしごと」(東京法令出版・日本広報学会賞受賞)など著書多数。主な活動は、公共コミュニケーション学会会長理事、総務省地域情報化アドバイザー、日本広報協会アドバイザーなど

 自治体広報の目的は、広報をすることではない。それでは同語反復、トートロジーである。広報紙をつくること、Webサイトを構築し運営することは広報の目的ではない。広報の目的は可視化と行動変容である。

 自らを透明化し、どのような行動をとっているかを、市民や企業・NPOに十分に見せる。それによって信頼を獲得する。我々の期待に沿った行動をとっていると市民に確認を受ける。それが目的としての可視化である。

 しかし、自らの振る舞いを自らが可視化した時に、信頼を獲得するに十分だろうか。「お手盛り」という言葉がある。自分たちの都合のいいことだけを伝えているのではないかという疑いがあれば、信頼は得られない。

 そのときに「他者」という存在は重要になる。他者とともに可視化を行うことが求められる。

 自治体広報のもう一つの目的はステークホルダーの態度変容である。市民、企業、NPOに対し、地域への多様な参画を促すこと、地域内外の人々に地域(まち)への関心を高めさせること、地域外の人々に交流や移住を検討させること。多くの態度変容に向けた広報がありうる。

 それら多くの広報を成功させるために求められるのが「広報対象を定める」ということである。ターゲティングといういいかたもできる。

 一方で行政には公平性が要求される。もちろん、公平性とは誰に対しても同じことをしなさいという意味ではない、それぞれの人に応じて最も適切な対応をすることが公平性である。しかし、行政が「市民」という「全体」に向けて広報を行うことを中心としていたのであれば、ターゲティングは必ずしも得意技ではない。

 こうしたときに2つの手立てがある。がんばって自ら得意になろうという手立てと、得意にしている他者と連携しようという手立てである。自らがんばるのも悪くない。しかし、地域(まち)は行政だけではできていない。地域経営に関わる多くの役割をそれぞれの得意技を持つもので分担することが、地域(まち)を元気にする。

 栃木県那須塩原市は積極的なシティプロモーションを進めている。シティプロモーションにおいては地域内外の多様なターゲットに情報を訴求し、参画・交流・定住などに向けた態度変容を図らなければならない。那須塩原市は、ターゲットそれぞれに訴求できる媒体を持つサンケイリビング新聞社と連携した。園児を持つ母親をターゲットとした雑誌「あんふぁん」による情報提供を行うことで地域(まち)への推奨意欲を高めることに成功した事例はわかりやすい。

 他者との連携は共感をつくることにも役立つ。行政ではない存在が、ターゲットと同じ目線で情報を提供し、発信することで、人の気持ちはやわらかくなり、行動への準備が整う。静岡県浜松市には、「NPOはままつ子育てネットワークぴっぴ」がある。行政と連携し、子育て情報に関わるWebサイトを運営している。提供されている情報には、民間・市民・当事者の視点が十分にうかがわれる。ぴっぴは行政から自立した活動を積極的に行っている。

 共感は多様性から生まれる。

地域(まち)に信頼を生み、地域(まち)を強靭にし、地域(まち)をやわらかくする。自治体広報において他者との連携・協働が求められる理由である。

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